怪しい彼女

Colum1

イム・ナミからオ・ドゥリへ~大人になった“彼女”松崎まこと (放送作家/映画検定1級)

『サニー 永遠の仲間たち』(2011)

『王になった男』(2012)

『怪しい彼女』(2014)

松崎まこと《放送作家/映画検定1級》

1964年生。早大卒。MX『博士の異常な鼎談』『松嶋×町山/未公開映画を観るTV』などの構成を担当。現在はニコ生の『WOWOW ぷらすと』などで“松崎ブラザーズ”の“松崎A”として映画深掘りトークを展開。

 スクリーンに映る“彼女”、シム・ウンギョンとの邂逅はおととし2012年の春、『サニー 永遠の仲間たち』。女子高の仲良しグループ“サニー”の面々の青春時代と中年になった現在~1986年と2011年が行き来するこの映画で、ウンギョンちゃんはヒロインであるイム・ナミの86年時=高校時代を演じた。
 『サニー』は、過ぎ去った“青春”の美しさやまばゆさ、そして悔恨を蘇らせてくれた上、そんな“青春”の時を経たからこそ、今も力強く生きていけるのだと、観る者を勇気づける作品。当時の私は40代後半にして、これからどう生きていくかの惑いが極まっていたこともあって、『サニー』にハマり、その後ネット番組や上映館でのトークショーなどで、この映画を語る機会を度々得た。実はそれが、“映画”を軸とした今の仕事のスタンスを決めるきっかけともなり、『サニー』は、一生の宝物のような映画となった。
 そしてそんな作品の主役であるウンギョンちゃんに、私は一目惚れ……は、実はまったくしていない。
 もちろん『サニー』に於けるウンギョンちゃん=若きイム・ナミには、初登場シーン~右も左もわからぬ転校先の通学路で、ひとり不安げに佇む姿~から、胸をギュッと掴まれた。“サニー”のメンバーとはしゃぐ際のはじけっぷりや、憧れの男子に優しくされて頬を赤らめるシーン等々で見せる、コメディエンヌとしての才能や愛らしく微笑ましい表情にも、心惹かれるものがあった。
 しかしながら彼女に感じたのは、「惚れたはれた」という思いからはほど遠い、むしろ妹や娘に抱くような気持ち。“サニー”のメンバーを演じた他のキャストの実年齢が20代だった中、彼女がただ一人本当の高校生だったというのも、その幼さを良い意味で際立たせていたと思う。
 そんなわけで、いい年こいた中年男たちで自然発生的に結成した、『サニー』のサポーター集団“おっサニー”で盛り上がったのも、カン・ソラ演じる“サニー”のリーダーであるハ・チュナが格好いい、ミン・ヒョリン演じるスジのクールな美少女ぶりにシビれる、はたまた、仇役のサンミも捨てがたい等々の話題で、ウンギョンちゃんへの思いを熱く語るようなことは、ほとんどなかった…。
 その後ウンギョンちゃんと再会したのは、昨年日本公開されたイ・ビョンホン主演作、『王になった男』での、王の毒見を務める女官役。この作品では、敬愛する王のために自らの命を投げ出すという、その健気さに涙を絞られたが、持ち前の童顔も手伝い、まだまだ子どもっぽいという印象は拭えなかった。
 しかし2014年の今、我々は認識を新たにしなければならない。ウンギョンちゃんの最新主演作、『怪しい彼女』が公開される!
 70歳の老女マルスンが、ひょんなことから50年も若返ってしまう。彼女は若き日にファンだった女優のオードリー・ヘプバーンに因んで“オ・ドゥリ”と名乗るが、その“オ・ドゥリ”が、今年実際にハタチとなるウンギョンちゃんの役どころ。
 老女マルスンを演じるのは、『ハーモニー 心をつなぐ歌』などの名女優ナ・ムニ。同一人物を年代の離れた2人の女優が演じるのは、『サニー』と同じであるが、純粋に高校生であるイム・ナミと違って、『怪しい彼女』の“オ・ドゥリ”は、見かけはハタチ、しかしその中身は、嫁をいびってノイローゼに追い込むような70歳の毒舌ばあさん。ハタチに戻って青春を謳歌しながらも、折々に強烈な70歳の顔が覗くというギャップが、逆に周囲の人々を惹きつけてやまないという設定だが、これをウンギョンちゃんは、爆裂的かつ魅力的に演じている。
 ハタチの“オ・ドゥリ”が恋をして見せる、恥じらいの表情もたまらないし、吹き替えなしの懐メロ歌唱シーンにも驚かされる。更に舌を巻くのは、70歳のマルスンのいびりと毒舌の背景を、回想シーンを交えて演じ切っている点。若き日に夫を亡くして女手一つで息子を育て上げた、たくましき“韓国の母”の土性骨と情愛まで、ウンギョンちゃんは見事に表現してみせた。
 『怪しい彼女』は、『サニー』と同様なテーマの“青春映画”としても素晴らしい側面を持つ作品だが、これはもう素直に、“大人の女優”に成長したウンギョンちゃんに見とれているだけで、十分に元が取れる!
というわけで私は、『怪しい彼女』のウンギョンちゃんに、すっかり骨抜きにされてしまった。
既に韓国では記録的な大ヒットとなっている『怪しい彼女』が、日本でも大ブームとなり、愛しのウンギョンちゃんの国際的な(!?)ブレイクにつながるよう、大いに盛り上げていきたい。